真田さん

宇宙戦艦ヤマト』の主要クルーの一人である技師長・真田志郎は、科学者という設定のせいもあってか、キャラクターデザインは実直な人間を感じさせる比較的おとなしめで端正なイメージに抑えられていますが、実は科学に対して愛憎半ばする想念を強く抱いた人物であるという性格付けが与えられていました。そして、この人物の声を演じた青野武さんは、非常に癖の強い、どちらかと言えば悪人の役に似つかわしい声質で、しばしば強い情念を感じさせる演技を交えながら真田志郎のキャラを作り上げていました。
 その結果真田さんは、単に天才メカニックというだけのキャラクターではなく、科学に対して抱く強烈で屈折した情念を驚異的な研究開発能力の原動力にしつつ、それをあくまでもクールな表情の下に隠しているという、深い陰影を感じさせる魅力的な人物になりました。

俺は子供のころ絵が好きでな、大きくなったら画家になりたいと思っていた。
それがどうだい、科学畑のプロだぜ……姉を交通事故で死なせてからだが。

機械が人間が殺す、そんなことがあってよいものか。
科学は、人間の幸せのためにこそあるものであり、人間は科学を超えたものだ。
そう考え、それを実際に確かめるために、俺は科学者になった。
科学は俺にとって、屈服さすべき敵なのだ!

(『宇宙戦艦ヤマト』第18話「浮かぶ要塞島!たった二人の決死隊!!」より)

f:id:hash_ayabe:20130817133945j:plain 小さい頃に最初にこのエピソードを見た時には、意味こそよくわかりませんが、真田さんから何やら鬼気迫るものを感じました。何かに強い憎しみを持つからこそ、それを克服するためにあえて自ら対象に身を投じる。そんな人物像を見たのは、たぶん当時の私にとっては真田さんが初めてだったからでしょう。
宇宙戦艦ヤマト』が製作された1970年代前半は、公害問題やオイルショック等の影響で、科学による人類の進歩という楽観的な未来像が疑問視されるようになった時代であり、真田さんのキャラクター設定にもそうした時代の影響が感じられますが(最近では原発の一件でまたこの視点が論じられるようになりました)、真田さんは物語の中のキャラクターとして、類型的・観念的な科学批判に留まらない際立った魅力を持っています。
 現在劇場公開されているリメイク版の『宇宙戦艦ヤマト2199』では、やはり一癖ある声質が特徴の(そして洋画吹き替えで小悪党的な人物を演じることも多い)大塚芳忠さんが真田さんを演じているそうです。今度はどんな真田志郎像が描かれるのでしょうか。

青野武さん死去「ちびまる子ちゃん」のおじいちゃん役、声優・俳優として活躍(2012年4月10日)

 10日、声優・俳優として活躍した青野武さんが、亡くなったことが明らかになった。所属事務所が認めた。75歳だった。
 テレビアニメ「ちびまる子ちゃん」の“おじいちゃん”さくら友蔵役の2代目を、1995年から2010年に解離性大動脈瘤(りゅう)で入院するまで約15年間務めていた青野さん。「宇宙戦艦ヤマト」シリーズの真田志郎役、映画『ホーム・アローン』シリーズでジョー・ペシが演じたハリー役など声優を務めたテレビアニメ、劇場アニメ、吹き替えを担当したハリウッド映画は、数知れない。
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