天装戦隊ゴセイジャー VS シンケンジャー エピックon銀幕

 今年の初めに劇場公開された、毎年恒例の新旧スーパー戦隊VSシリーズです。元々Vシネマとして毎年ビデオ(DVD)リリースされていたシリーズで、一昨年の『ゴーオンジャーVSゲキレンジャー』が事情により急遽劇場公開されて予想外の興行成績を収めてからは、劇場公開が恒例となりつつあるようです(最初から劇場公開を前提として製作されたのは前作『シンケンジャーVSゴーオンジャー』に続いて二回目)。
 今作で共演しているのは2010年の『天装戦隊ゴセイジャー』と2009年『侍戦隊シンケンジャー』。さらに今年2月からTV放送がスタートしている次回作『海賊戦隊ゴーカイジャー』も、TV放送開始にちょっと先行して顔見せしていますが、積極的にストーリーに絡んできてはいません。これも昨年の『シンケンジャーVSゴーオンジャー』でゴセイジャーが軽く顔見せ程度に登場していたのに引き続いて、VSシリーズの恒例となりつつあるようです。

秘密戦隊ゴレンジャー』を皮切りに長命のTVシリーズとして続いているスーパー戦隊シリーズは、あまり見たことがない人だとどれも似たような“テンプレ”的番組に見えるかもしれませんが、実際には毎年モチーフや作風を変えて、共通する基本フォーマット( (1)集団ヒーロー、(2)ヒーロー側メンバーは5人プラスマイナスアルファで原色かそれに近いキャラクター別カラーによって明確に見分けられる、(3)その中で「赤」は常に中心となる主人公的存在、(4)敵怪人を一度倒した後で怪人が巨大化してもう一度登場し、ヒーローは巨大ロボットでそれに対抗する、等)を踏まえつつも、バラエティに富んだ作品が毎年登場します。新旧両戦隊が共演するVSシリーズは、作風の異なる前作品と現作品のヒーローが互いの違いを視聴者(観客)にアピールしつつ共闘に移っていく、異種作品同士のクロスオーバーによる“化学変化”を楽しむことのできるシリーズでもあります。
 今作では、基本的にかなりシリアスな作風を通していた『シンケンジャー』と、対照的に明るく気楽な『ゴセイジャー』の組み合わせとなっており、VSの前作『シンケンジャーVSゴーオンジャー』と新旧の立場こそ入れ替わっていますが、対照的な二作品のヒーローをいかに魅力的に両立させるかという点では共通しています。
 前作は『ゴーオンジャー』のパラレルワールド設定を活かしてメンバーを別々の世界に散らし、各メンバーをそれぞれの世界でちょっとずつ絡ませつつ、メインの物語展開は走輔(ゴーオンレッド)と丈瑠(シンケンレッド)という両作品の主人公=レッド同士の絡みに集中させることで、「向かうべきところは共通しているがスタイルは異なる」という両ヒーローの対比を登場人物同士の掛け合いとしてわかりやすく見せていました。特に後半部で人質を取られた時に走輔と丈瑠が見せた態度の違いは、物語上では「実は敵を欺くための芝居だった」という意味づけこそ行われていますが、両作品のスタイルの違いを対比させ際立たせるというクロスオーバー作品の醍醐味を集約したようなプロットでした。
 対する今作では、両作品の作風の相違を際立った形で対比させるための構成上の工夫が、登場人物同士の掛け合いの中で双方の違いをくっきり浮かび上がらせる前作とは異なった形で行われています。VSシリーズの対比はしばしば「対立から共闘へ」という流れを作ることが多いのですが、今作では最初に一度丈瑠とアラタ(ゴセイレッド)が握手を交わして一応の協力関係を表現した後、流ノ介が登場してゴセイジャー勢とやや反りの合わないところを見せ、丈瑠の誘拐を契機にして両戦隊が一度対立関係に陥るという、「協力→対立→協力復活」のV字型の流れになっています。約一時間の尺で登場人物間の関係の変化・深化を見せる方法として、これは素直に上手い構成ではないでしょうか。前述のように、前作VSではその変化を見せる焦点をレッド同士に集約することで説得力を増していたので、ほぼ全員対全員での絡みで見せるシーンの多かった今作ではその焦点が拡散した印象がありますが、いったん同じような立ち位置にいるように見えるところから相違の“発生”を見せていくという構成上の工夫によって、この点はかなりカバーされていたように思います(具体的な見せ方の違いについては後で詳述します)。また、両者の関係の浮き沈みの波が変化する様をこまめに取ることによって、全体の物語の進行をスピーディに感じさせる効果もあったのではないでしょうか。
 この「対立」をビジュアルな印象として強調しているのが、「黒いシンケンレッド」とゴセイレッド等の対決です。丈瑠が“外道”に堕ちるか否かという話は『シンケンジャー』のTV本編でもシリーズ全体のクライマックスを盛り上げていましたが、今作では(敵に精神を操られているという形でではあれ)丈瑠が実際に敵方に回り、昨日までの家臣達や同じヒーローに対して凶悪な強さを見せつけています。この“黒い殿”、とにかく強い。もともと『シンケンジャー』本編でも丈瑠の強さは他のメンバーと一線を画したものとして描かれていたので、この描写にはまったく違和感がありません。さらに丈瑠の心を敵に囚われた状態から解放する決め手となったのが、アラタの「諦めの悪さ」だけでなく、もう一人のシンケンレッド・志葉薫のモヂカラでもあったというのもポイント。前線にこそ登場しませんでしたが、『シンケンジャー』終盤を盛り上げた“姫”にしっかりと活躍の場があったのは嬉しい限りです。

 この戦隊連合に対峙する敵ですが、主敵となっているのは『ゴセイジャー』側から登場したブレドラン。ただし外道衆を手懐けるために、かつてシンケンジャーに倒された外道衆の総大将・血祭ドウコクの姿を借りた「血祭のブレドラン」です。もともと『ゴセイジャー』作中でブレドランが複数の敵組織を渡り歩き、「彗星のブレドラン」「チュパカブラの武レドラン」「サイボーグのブレドRUN」と次々に姿を変えていたのを踏まえたものと思われます。なお今作の時間軸は、『ゴセイジャー』での幽魔獣編とマトリンティス編の間に位置付けられているらしく、ブレドランは戦闘中に分身として「彗星」体と「チュパカブラ」体を登場させていますが「サイボーグ」体は出てきません(もちろんブレドランの“最終形態”たる「救星主のブラジラ」も出てきません)。
 外道衆からは他に『シンケンジャー』本編で最後まで生き残っていた外道衆幹部・骨のシタリも登場しますが、戦隊次回作の顔見せとしてちょっとだけ登場したゴーカイジャーにあっさり倒されていたのがちょっと残念。できれば舞台裏(?)では「海賊相手でもやっぱり生き残るのがあたしの外道さね~!」であってほしいところですが……

 以下、流れに沿って個別のシーンの印象などを。

  • おなじみ東映印(磯波ザッパーン)にいきなりゴセイレッドが被さって、キャラ紹介を兼ねた冒頭の戦闘シーンへ。
  • タイトル部分でゴセイとシンケンだけでなく歴代スーパー戦隊の存在にも触れているのは、全戦隊集合企画の後番組『海賊戦隊ゴーカイジャー』を踏まえて、軽く期待感を煽っているんでしょうね。
  • 使いっ走りのアラタ。他のゴセイメンバーが買い物で頼んでいるものや頼み方が、またキャラ紹介を兼ねています。
  • 天装術が効かない敵アヤカシ(マダコダマ)の前に立ち塞がるシンケンレッド。シンケンジャーは最終回でいったん全員が散り散りになっているので、この時点では丈瑠だけが登場。
  • 目的の共有を認識してアラタと丈瑠が握手する光景に「なんか打ち解けるの早すぎない?」と思ったのですが、実は後のシーンで対立構図を強調するための前振りでした。
  • 天知家にいきなり“上座”を作って丈瑠に怒られる黒子さんがシュール。そういえば志葉家のセットは番組終了直後に解体されてるんですよね……
  • 「爺! ……長い」これこれ、これがなければシンケンじゃない。w
  • 家臣の再招集に対して、真っ先に現れた家臣は(やっぱり)流ノ介。なんかテンションが本編より異常に上がってませんか?w
  • 侍を理解するアイテムとしてなぜかかつらを用意するハイドのズレっぷりがよろしい。流ノ介同様、まじめな割にちょっとずれてるのがハイドさんの味であります。
  • マダコダマ再登場で次の戦闘シーンへ。本作では戦闘シーンが細切れに次々と挟みこまれているので、全体のアクション多めという印象がいや増しています。
  • 戦闘中に千明が合流、そしてドウコクならぬ「血祭のブレドラン」登場。ビービ虫っていろいろ便利に使えるアイテムだなあ。
  • 丈瑠誘拐後、ゴセイとシンケンの対立構図が明確化するのですが、ここで両者のスタイルの違いが「組織原理の違い」という面白い形で現れます。
  • 殿が三途の川に連れ込まれたことを懸念する流ノ介と千明に対して、相手がブレドランであることから「三途の川に連れ去られたとは限らない」と考えるアラタたち。それに対して流ノ介が「ブレドランなら殿を何処へ連れ去ったというのか」と問い、ゴセイジャーは答えに窮します。ここで流ノ介が期待していたのは、侍が外道衆の動向や行動の傾向性を細かく解析して対策を立てていたように、護星天使もまた敵手のブレドランを研究し、そこから「奴ならさらった人間を何処に連れて行ってどうするか」について高い確率で推測を立てられるのではないか、ということなんでしょう。
  • ここで流ノ介と千明がアラタの「何とかなる」に感情的に反発することに違和感を覚えた向きも少なからずいたようですが、これは「敵に対してどう対応するか」という行動スタイルの違いから生まれたものじゃないかと思います。特定の敵(外道衆)に対抗してあらかじめ敵を深く研究し対策を立てている侍と、広く「地球を護る」という使命を持っているが故に特に決まった“敵”を持たない(それ故に特定の敵に対する傾向と対策のノウハウを事細かに積み重ねているわけではない)護星天使との違いが、こういう形で現れたと思われます。シンケンジャーが「外道衆に対抗する」ことを目的とした非常に目的合理的な組織集団であるために、そうではない護星天使に対する流ノ介や千明の失望感が生まれたのでしょう。前作では二戦隊の代表キャラ(レッド同士)の行動原理の違いとして二作品のカラーの違いを際立たせていたけれど、今作では戦隊として敵に対峙する時の組織原理の違いとして表されているわけです。
  • 物別れに終わったところでこれからどうしようという時に、アラタが「他のシンケンメンバーを迎えに行く」という(物別れとは相反する)提案をします。具体的にどうするかはともかくとして、目の前の相違を乗り越えて協力することで道が開けるはずだという大まかなビジョンが、他の感情的になったシンケン&ゴセイメンバーには見えていないけれどアラタにだけは見えていたということでしょう。
  • そして茉子とことはが登場。エリのフリーダム振りやことはの天然ボケがしっかりアピールされています(笑)。
  • ほぼ全員が二陣営に分かれながらも集合したところで、ブレドランに操られた“外道シンケンレッド”登場。丈瑠の圧倒的な攻撃に直面したシンケンメンバーを守るためにアラタが命がけで立ちはだかるところで、他の侍たちが一瞬諦めてしまうところにちょっと引っかかりはするのですが、丈瑠がいかに強いかは家臣たちの方が身にしみてよく知っているはずなので、とっさにああいう反応になってしまうこともあるのかもしれません。
  • 助太刀で源太とゴセイナイト登場。今作ではゴセイナイトの出番が少ないなあ。
  • 一夜明けて、モチーフを揃えて天装術とモヂカラを組み合わせた戦法の特訓開始。
  • パリ修行を経ても、源太の寿司の味はやっぱり「普通」でした(笑)。
  • 姫登場! 「丈瑠のお母さん」と言われて面喰らうアラタさん。そりゃそうだわな。
  • 三途の川の水を利用して護星界を滅亡させるというブレドランの本当の目的が明らかに。シタリはここで反目して物語の本筋から外れてしまいます。侍を倒すことより「生き残ること」を優先したシタリらしい道行きだとは思いますが、ここでフェードアウトしてしまうのはちょっと残念かも。
  • 外道シンケンレッド対その他の全メンバーでも、殿はやはり強い。片手にシンケンマル、もう片手でモウギュウバズーカをサブマシンガンよろしく軽々操る丈瑠の姿が、ゴーカイジャーのやっている銃+剣の両手遣いにも被って見えます。
  • シンケンレッド対ゴセイレッドの対決。シンケンとはまた違ったフェンシング風の剣戟アクションやゴセイブラスター腰溜め射撃など、『ゴセイジャー』本編で印象的に描かれていたゴセイレッドならではのスタイルがここでも再現されています。丈瑠に負けず劣らず、いざ戦いとなればアラタも割と容赦ない戦闘スタイルになるんですよね。
  • 姫のモヂカラの力を借りたアラタによって元に戻る丈瑠。安堵する家臣みんなに囲まれた丈瑠の姿は、『シンケンジャー』本編で丈瑠が外道堕ちから救われた時の様子をちょっと連想させます。
  • そしてVS恒例の全員名乗り。おなじみの陣幕には志葉家の家紋と護星天使の紋章(前作ではゴーオンジャーのマークが描かれていました)。
  • 乱戦を横目に三途の川を取り戻そうとするシタリと、そこに登場するゴーカイジャー。メインの戦いとちょっと離れたところで新戦隊のお披露目という趣向は前回と同じ。提灯(ダイゴヨウ)だけが見ているというのも同じです(笑)。「映画らしいからな、いつもより派手に行くぜ!」とか(他戦隊レッドにゴーカイチェンジして)「ま、“海賊版”ってやつ」とか、なんだかメタな台詞が連発されてますが。
  • シタリさんがぁぁぁぁぁぁ。
  • マダコダマを特訓の成果で撃退→ブレドラン撃破というアクションつるべ打ちの後、最後の巨大戦の前に、三途の川の奔流から護星界を守るシークエンスがいったん入ることで、流れが戦闘シーン一辺倒にならずに緩急がついています。ここであの「封印の文字」が使用されるのも印象的。TV本編では封印の文字を使うのにかなり苦労していましたが(そもそも志葉家の“本物の”当主しか使えないという縛りもありました)、天装術の力で全員スーパー化している上に全員で手分けして書いていけば、ドウコク封印は出来なくとも三途の川を食い止める程度の力は出せるということでしょうかね。
  • 「俺たちは絶対に諦めない!」→新しいカード登場で新合体形態登場の流れも『ゴセイジャー』本編通り。個人的にはこの流れはあんまり好きじゃないんですけどね(笑)。
  • かくして巨大化した血祭のブレドランも撃破。ちなみに『ゴセイジャー』本編でマトリンティス帝国のメタルアリスが拾ったブレドランは、「チュパカブラ」体じゃなくてこの「血祭」体のほうだったという裏設定(?)があるそうです。
  • 最後に軽いギャグで落とすあたりは『ゴセイジャー』準拠ですね(笑)。
  • エンディング曲の「ガッチャ☆銀幕~ゴセイジャーVSシンケンジャー~」は、一部アレンジを加えてはありますがほぼ「ガッチャ☆ゴセイジャー」そのままです。ここでいきなり本編に登場しない天知博士が映っているのにびっくりしました。ゴーカイジャー+35スーパー戦隊もしっかりアピール。