忍び込む季節

8月の末ごろになると何処からか浸入したものか夜9時頃になるとお店の土間のどこかで、こおろぎが鳴き始める。何も知らないお客様はわざと飼っているとでも思っているのか、「まあ!風情があるわ」…などと感心してくださる。又、「月見に相応しい」などと喜んでくださる方もある。想えば、毎年決まったように虫の声をこの土間で聞きながら秋を迎えてきたような気がする。お店を閉めて帳場で一人この虫の声を聞きながら今年も秋を迎えます。

「虫の声」 ─ 雪峰花譜 おかみの花日記 2002年9月15日

 人の手で意識的に季節感を出そうとしなくても、自然はいつの間にか人間の生活空間に、季節の移り変わりを忍び込ませてきます。でも、空間が高いレベルでコントロールされ人工物の音が溢れる都市部に住んでいると、平均気温や湿度や降雨量(降雪量)などといったコントロールしきれない巨大な気象の変化はともかく、「風情」とも言える微細な変化にはなかなか気付きにくいものです。