『帰ってきた天装戦隊ゴセイジャー last epic』

 戦隊シリーズの人気作『侍戦隊シンケンジャー』ではTVシリーズ終了後、恒例の新旧戦隊VSシリーズとは別に、終了した戦隊の単独Vシネマ作品として『帰ってきた侍戦隊シンケンジャー特別幕』がリリースされました。『シンケンジャー』の後番組『天装戦隊ゴセイジャー』でもこれを踏襲して、TVシリーズ終了後しばらくしてから2011年6月に、『帰ってきた天装戦隊ゴセイジャー last epic』がリリースされています。今回はそのお話。

『帰ってきたシンケンジャー』はTV本編の時間軸の途中を舞台にしたコミカルなサイドエピソードとなっていますが、『帰ってきたゴセイジャー』のストーリーはTV本編の直接の続きになっています。ただし『ゴセイジャー』の後番組『海賊戦隊ゴーカイジャー』ではゴセイジャーを含めた全戦隊が戦隊としての力を失ったという設定になっているので、本作は『ゴセイジャー』本編終了から『ゴーカイジャー』のスタート(レジェンド大戦)までの間にあった、ゴセイジャーが力を失う前の話であるという断りが、冒頭のアラタのナレーションとして入っています。
『帰ってきたゴセイジャー』の本編は、TV本編で正式な護星天使となった後、居候していた天知家を出てそれぞれのスタイルで地球上での生活を続けている護星天使たちの後日談になっています。人間界のことをもっと知りたいと望んで地上に居続けることを選んだアラタたちは、地上ではなるべくゴセイパワーを使用せず、またやむを得ず人前でゴセイジャーとして活動した時には、その場にいた人々の自分に関する記憶を必ず消しています。この記憶消去のプロットはもともとTV本編にも存在したものですが、序盤のウォースター編で何度か使用された後はほとんど本編に登場することがなくなっていました。ゴセイジャー全体のプロットの根幹に関わるかなり重要な設定だと思われる割にはかなり曖昧になっていたものですが、『帰ってきた~』ではこの記憶消去の設定がストーリーの中核に据えられます。
 謎の電磁波の影響によって突然記憶消去の天装術が使えなくなり、本来は人々に対して秘密であったはずの護星天使の存在が人々に知られることになってしまったため、アラタは逆にマスコミを通じて自分たちの存在を人々に知らしめることにします。そこに「芸能のサカイ」というプロダクションがマネージャーとして押しかけてきて、ゴセイジャーはなぜかヒーロー兼アイドルのような売り出し方をされてしまいます。初めのうちは困っている人々の元に素早く駆けつけるための情報収集手段として、有名になることはアラタ達にとっても悪い話ではないように思われましたが、多忙なアイドル生活は次第にアラタたちの負担になっていき、ゴセイジャーに会いたいがために狂言で事件を起こす人も現れます。やがて偽の首相誘拐事件によって警察に追われる身となってしまったゴセイジャーは、それまでの人気が反転して一気に人類の敵扱いに転落してしまいます。
 マスコミの変わり身の早さやそれに踊らされる人々を軽く揶揄するようなプロットは、スーパー戦隊でも時々採用されることがあるようで、『炎神戦隊ゴーオンジャー』の第11話(GP-11)「電波ジャック」ではアンテナバンキの力によってゴーオンジャーのメンバーがいきなりアイドル化されつつ、一人だけ軍平(ゴーオンブラック)だけがなぜか言われなき指名手配犯として追われていました。そしてこういう話では、表層的な情報に踊らされる人々と対照的に、一時的な情報操作などには踊らされず仲間を信じる強い絆が勝利を収めるという流れが順当な落とし所になります。『ゴーオンジャー』では軍平がこの絆を強調する役割を担い(ただでさえネタ的に人気者だった軍平はこの回の“熱さ”でさらに人気を高めたとか何とかという噂も聞きますが)、『帰ってきたゴセイジャー』では望とゴセイジャー全員(そしてゴセイナイト)がこの役割を負っています。犯人報道に接してあっさりゴセイジャーに対する評価をくつがえしてしまう人々を前にして、一時的な報道によって評価を変えることなどなかった天知望は、ゴセイジャーがもともと人々を守ってきたヒーローであったことをみんなに思い出させます。さらにこのモチーフを強調するために、今回のゲストヒロインである元人気女優の星野ユメコは、マスコミの報道によっていきなり掌を返したように評判を急落させられた経験から他人を信じられなくなったところを、今回の主敵であるキングビービに利用されたという設定になっています。キングビービに取り込まれたユメコに対して、あのゴセイナイトが「信じていた者に裏切られたあなたの絶望はわかる。だがこの地球には、あなたを守るために命がけで戦う者も存在するんだ。そのことをわかってほしい」と語りかけるところでは、一年間の戦いを経た後のゴセイナイトの変化をも合わせて想起させつつ(一年間の重みの強調)、「例え誰かに不当に傷つけられたとしても、護星天使はいつでも君のそばにいる!」と言わんばかりの、正統派ヒーローとしてのゴセイジャーの魅力が強力にアピールされています。ほんと、TV本編でももっとこういうストレートに熱い展開がたくさんほしかったよなぁ……。
 ラストシーンで海にきらめく逆光の中へとフェードアウトしていく5人の天使の姿も、どこか寂しげな雰囲気を伴いつつ大団円の余韻を確かに残してくれます。「悪しき魂」との大きな戦い(TV本編)が終わってからも、護星天使は今なお人知れずみんなを守っている……という後日談として、『帰ってきたゴセイジャー』は非常によい作品に仕上がっていると思います。誰かが「なんでこれをTV版の最終回にしなかったんだ」と言っているのを見かけて、その気持ちが非常によくわかりました。TV本編の放送中の評判でははっきり言って精彩を欠くところの多かった『ゴセイジャー』ですが、この作品は本来『ゴセイジャー』が持っていた最良の資質を余すところなく発揮した良作ではないでしょうか。