「地球か、何もかもみな懐かしい……」

 ちょっと前に無事地球への帰還を果たした「はやぶさ」のミッションが、私のような科学や宇宙工学のド素人にも歓迎されたのは、ミッションを巡る言説が探査機の“生涯”を巡る「物語」の文脈に載せやすかったからなんだろうなあ、と思います。
 例えば、「はやぶさラストショット」としてTwitter上でも多数広められた(私もちょっと広めたけど)、「はやぶさ」のカメラが最後に撮影した地球の写真。

突入直前、地球を撮影 はやぶさ最後の1枚(東京新聞 2010年6月13日)

 宇宙航空研究開発機構は13日、小惑星探査機「はやぶさ」が大気圏突入の直前に撮影した、太陽に照らされて輝く地球の写真を公開した。
 撮影を担当した宇宙機構の橋本樹明教授によると、2時間ほどかけてはやぶさの姿勢を整えて5、6枚を撮影。ほとんどが真っ黒な画面だったが、時間ぎりぎりの最後の1枚に地球の姿が残っていた。約30分後には大気圏に突入し、本体は燃え尽きたとみられる。
 撮影したカメラは小惑星イトカワ」を撮影した際にも使われたが、省エネのためその後電源を切っており、起動するか分からないとされていた。はやぶさは最後の最後まで期待に応えた形になった。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2010061301000705.html

 もともとこのフォトミッションは予定には含まれていなかったのですが、サンプルカプセルを放出した後大気圏に突入して消失するまでの僅かな時間を利用して、最後に「はやぶさ」に地球を一目見せるための追加ミッションとして準備されたのだそうです。

「はやぶさ」大気圏突入前、地球撮影に挑戦(読売新聞 2010/6/13)

 ……はやぶさの最後の重要任務は、小惑星の試料を納めた可能性がある内蔵カプセルを機体の前面から地球に向けて放出する作業。それに必要な姿勢を保つため、底面のカメラは地球が見えない方向に向けている。
 相次ぐ故障を乗り越えて帰ってきたはやぶさに、その「目」で、もう一度地球を見せたい――。はやぶさ計画を率いる宇宙航空研究開発機構の川口淳一郎教授らが撮影を思い立った。カプセル放出から大気圏突入までの約3時間、残るエンジンなどの力を振り絞ってカメラを地球に向ける。
 ……

http://www.yomiuri.co.jp/space/news2/20100613-OYT1T00056.htm

 この題材を使ったイラストも登場していましたが、以前から「はやぶさ」はけっこう擬人化されて表現されることも多く、最後に故郷を一目見るという“イベント”は、付随的なミッションでありながらまさにこうした「物語」的な受容のされ方にぴったりマッチしたものだと言えます。