of the people, by the people, for the people

 小学校5年か6年生の頃だったと思う。人民の、人民による、人民のための政治よ、と僕の隣の席にいた優等生ぶった女子は教えてくれた。
 リンカーンが発したこの言葉は、日本人なら必ず習わされる。なぜか最近になってこの言葉が気になりはじめた。
 ―「人民の」と「人民による」って、結局おんなじじゃないの?

 もちろん学校でそんなことを教えてくれるはずもなく、この三連句がセットで暗唱させられる。
 最後の「人民のための」だけは、わかりやすい。人民の利益になるような政治、という意味合いで、明らかに他と独立している。なのに「人民の」と「人民による」は、ふつうに考えればどちらも「人民自身が実施する」という意味になり、だったら、「人民による、人民のための政治」とだけ翻訳されればいい話だし、現にそう表記しているサイトもある。

Sea Lion Island 2004年8月11日

 有名な " government of the people, by the people, for the people " について、ofを政治権力の由来する権原を指示しているものという意味合いに取る解釈と、ofを目的格として「of the people=人民を統治すること」という意味合いに取る解釈が紹介されています。
 確かに後者の丸谷才一の解釈に基づく「人民を、人民が、人民のために統治すること」のほうが「スマートでわかりやすい」のですが、恐らく前者は、統治行為(government)がいかに組織され実施されているかということだけでなく、その統治行為はいかなる理由・根拠によって正統とされているのか、政治権力の正統性(legitimacy)がどこに由来しているのかを強く意識したものではないかと思います。イギリス王権からの独立戦争によって成立したアメリカ合衆国は、この国を支配する権力がどこか遠く離れたところにいる王権からの委任によってオーソライズされているのではなく、あくまでもこの土地に住んでいる人々自身によってオーソライズされているのだということを、こういった折にちょっとした形で再認識しているのかもしれません。