Doctor Universalis

例えばの話、医学の博士課程を修了した者は「医学博士」と呼ばれ、文学の博士課程であれば、それを修了した者は「文学博士」と呼ばれるが、しかし今、私がなりたいのは「もの知り博士」だ。いきおい考えをめぐらせれば、学ばなければならないのは「もの知り学」かということにもなるが、「もの知り学」となると、「もの知り」という現象それ自体を研究対象とするにちがいないのであって、そうしたものは私のなりたい「もの知り博士」とはまた別の「もの知り博士」だ。と考えていて、はっと気づかされるのは「博学」という学の存在である。まちがいなく、私のなりたいと願う「もの知り博士」は博学の博士課程を修了している。

「博士」 ─ Superman Red 2002年3月23日

 語感として一番近そうなのは「博物学(Natural History)」ですが、これは今で言う自然科学のうち観察・分類を要する営み全般を指す用語なのでちょっと異なりそう(そもそも博物学とNatural Historyの間にもズレがありそうですが)。属人的な称号で似たようなところを探すなら、中世ヨーロッパの神学者アルベルトゥス・マグヌスの称号「Doctor Universalis(普遍博士・全科博士)」あたりでしょうか。ともあれ、中世とは比較にならないほどに専門分野ごとの知識や理論体系が深化して、一人の人間が全ての知の領域を網羅することなど一生かかってもできそうにない現在では、こうした存在は夢のまた夢ということなのかもしれません。