ガンダム漬け(2)

 昨日の続きで、個別作品の感想などを。

機動戦士ガンダムAGE
 あんまり評判のよくなかった『AGE』ですが、私は割と好きですよ。
 何と言うか、「見やすい」んですよね。まず絵柄に強い癖が無いので絵面が見やすい(これは『SEED』と同時に見ていた影響もありますが)。ストーリーの進行が比較的ゆったりしているので、作品から“急かされる”(強いられる?)印象が少なくてマイペースに見られる。メカなどの描線があまり複雑怪奇なことになっていないので、乱戦状態等のこみ入った状況の描写でも画面上で何が起こっているのかがすっきり見通せる。こうした作風は子供にもとっつきやすい作品を目指した『AGE』らしい特徴ですが、一方でストーリーはガンダムらしく(?)それなりに凝ったものになっていて、三世代という長丁場の中でのそれぞれの当事者の心理や人間関係の変遷が、面白い形で描かれていたと思います。
 ところがこうした諸特徴が、既存のガンダム作品に似たテイストを求めていた向きに対してはどうやらことごとく裏目に出てしまったようで、
・絵柄に癖が無い → 没個性的
・ストーリーの進行がゆったり → 起伏が無い、退屈
・メカの描線が複雑でない → メカデザインの手抜き、00とかUCを見習え
・ストーリーが凝っている → おまえ子供向け言ってたんちゃうんか
……といった感じの批判に結びついてしまった感があります。

 

機動戦士ガンダムSEED
 10年前の作品ですが私はまだ見たことが無くて、今年の「HDリマスター版」を機に初めて全編通して見ました。
 キャラクターデザイン等についてはちょっと私の肌に合わないところもあるのですが(おめめパッチリ髪の毛ツンツンな造型は10年前当時の流行りの絵柄だったようにも思います)、それを補って余りある起伏に富んだストーリー展開や舞台設定、そして繊細な心理描写などに引き込まれて、最後まで楽しんで見ておりました。あの「9・11」を強く意識したという、時流を感じさせるテーマの選択と落とし込みもなかなかに興味深く、他の作品と「戦争」観を比較対照して考えてみたくなる作品でもあります。

 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY
 SEEDリマスターを見終わった後に、余韻冷めやらぬ中で続けて一気に見ました。好悪の評価が結構分かれている前作『SEED』以上に毀誉褒貶が激しくぶつかりあっているこの作品、私もちょっと不安を抱きながら見ていましたが、最終的には「うん、これはこれで面白いしアリなんじゃない?」ということになりました。
 よく言われる「主人公交代」ですが、私の目には別に主人公が「交代」したようには見えなくて、複数の人物が主人公格ではあったけど一番「主人公らしい」のは最後までシン・アスカだったと思います。ただ、この作品は他のガンダム作品とはかなり毛色が違っていて、主人公が物理的ないし心理的に勝利することでフィナーレを迎える作りにはなっていないんですよね。少年の日に抱いた強烈な喪失感とそれに立脚した強い正義感・倫理観を持って軍人の道を選んだ主人公が、その正義感・倫理観の強さ故にかえって自らの生きる道を見失ってしまう過程を描くという、見る側に前向きの明るいカタルシスを与えてくれない「主人公が敗北する物語」なので、このへんは確かに評価が分かれても仕方ないところなのかもしれません。ある意味で、『ガンダムAGE』のフリット・アスノの描写(少年の日に強い決意を抱いた主人公が、数十年後の老境に至ってその決意の「成就」を見ることなく、むしろ決意を「断念」するまでの展開)にも似ているように思います。
 個別の人物描写については前作『SEED』よりも掘り下げが深められているように思いますが(キラだけはかえって以前よりも紋切り型の平板なキャラになってしまった感あり)、個別の心理描写を先行させ過ぎるあまり、ストーリー展開や全体の世界観においてかなりの合理性の欠如やご都合主義が増えてしまったのが本作の難点ではないかと思います。特に「未来戦争アニメ」としてガンダムシリーズを見てきた人にとっては、この点が無視しえない欠陥として映ったのではないでしょうか。ストーリーが割とすっきりした一本道を辿っていた前作に比べて、本作では全体的にバラエティに富んだ展開を心がけているような印象がありましたが、これも筋道としてのストーリー展開の構築より個別キャラクターの描写を重視したことの現れだったのかもしれません。