パニック映画?

 映画『U・ボート』と言えば、公開後30年を経た今でも古今東西あらゆる潜水艦映画の頂点に君臨し続ける作品として、またより広く戦争映画という枠においても堂々たる名作として定評のある作品だろう。
 本作の監督ウォルフガング・ペーターゼンはしばらくしてアメリカに渡り、今ではハリウッド流大予算映画を手がける常連監督としても知られているけれど、一方では単純な娯楽作品や『エアフォース・ワン』のようなアメリカ万歳映画ばかり撮っていて、『U・ボート』のペーターゼンはいったいどこに行ってしまったんだ、という嘆きの声をたまに聞くことがある。
 ところが実際には、もともとペーターゼンはもっぱら“文芸的”な作品を手がけるタイプの人ではなく、『U・ボート』以前から割と俗っぽい商業作品をたくさん作ってきた人らしい。『U・ボート』が強いメッセージ性を帯びている(ように見える)のは、ペーターゼンのフィルモグラフィーの中ではむしろ例外的な事例のようなのだ。

「作家」か「職業監督」か、ペーターゼン二つの顔 (DAY FOR NIGHT)

 考えてみると、『U・ボート』の最大の特徴とも言える艦内描写、特に敵駆逐艦のソナー音が迫ってくるのを聞きながらじっと乗組員が息をひそめる“静”と、次の瞬間の爆雷攻撃によって艦内が混乱と絶叫の渦に叩き込まれる“動”とのコントラストなどは、ホラー映画やパニック映画の文法に忠実に即した結果だとも言える。『ジョーズ』になぞらえるなら、さしずめ敵駆逐艦は巨大ホオジロザメで、ソナー音はジョン・ウィリアムズによるあの不気味なジョーズのテーマ曲に相当すると言えるだろうか。
 そういえば、どこで見たのかは忘れたけれど、旧ドイツ海軍の本物の元Uボート乗組員が『U・ボート』映画を見た時の反応として、リアルだという好評だけでなく、爆雷攻撃のたびに毎回あんなパニック状態に陥るなんて現実にはありえないことだという批判もあったらしい。まあ私は実際に潜水艦に(ましてやドイツ軍のUボートに)乗ったことがあるわけじゃないので何とも言えないところはあるんだけど、人間って結構ひどい状況に置かれてもそれなりに環境に順応しちゃうことはあるので、敵の探知に息をひそめたり爆雷で艦が揺さぶられたりすることが戦時の日常として定着しているのであれば、そんな日常に毎回騒ぎ立てることなんかしないという現実だってあり得るかもしれないなとは思う。もしかしたら作中の描写のリアリティは、戦時中の実際に乗組員にとってリアルだということではなく、戦後の私たちが実際に経験していないUボート生活を(パニック映画的な想像力を駆使して)想像する限りにおいてリアルだ、ということなのかもしれない。実際の乗艦経験を元にして『Uボート』の原作を書いたブーフハイム氏はそのへんどう思っていたんだろうか?

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