もの

「ぞうのミミカキ」理論社★★★★☆☆ まどみちおの最新詩集(だと思う)。「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」などの童謠の作者として知られるまどみちおは、前からMorris.のお気に入りで、特に言葉遊び歌系統のものを好んでいた。冒頭に「ものたちと」という詩があり、これが本詩集のタイトル代わりになってる感じで、全篇がもの(日用品、部品、工具、そしてすべての「もの」たち)を題材にした詩集となっている。(略)

--ものたちから みはなされることだけは
ありえないのだ このよでひとは

たとえすべてのひとから みはなされた
ひとがいても そのひとに

こころやさしい ぬのきれが一まい
よりそっていないとは しんじにくい
(「ものたちと」より)

Morris.日乘(98年12月)1998年12月4日

「モノよりもココロ」とか「コンクリートから人へ」とか、「もの」を情緒的にとらえる言説というのはだいたい「ひと」に対して二次的な重要性をしか「もの」には付与しないのが相場です。いま私が読んでいる柳宗悦の民芸運動にしても、プライマリーな重要性が与えられていたのは「もの」としての民芸生産品それ自身ではなく、そこから透かし見られる民衆の生活実践のほうです。でも、全ての人から見放された人がそれでも最後まで掴んでいるこの世のよすがが「こころやさしい ぬのきれが一まい」というのは、非常に面白い感覚だと思います。
 考えようによっては、人間同士のコミュニケーションを過剰に重視することで、万が一その回路が断たれた場合の絶望をより一層深めるよりも、一人きりの人間だって何気ない「もの」に支えられることがあるということを認めるほうが、「ぬのきれ」に寄り添われている孤独な人にとってはより大きな救いになるのかもしれません。