なじんだ名前

Togetter - まとめ「せんとくん/まんとくん論争 Why Now?」


 内側から見たのと外側から見たのとでは印象が異なるという話から、妙なことを思い出しました。

 街を歩いていると、いろんな広告看板に出くわします。看板には企業名や広告名、そしてそれらの名前を図案化したロゴマークなどが大書きされています。こういった看板に書かれた名前(とそれを図案化した意匠)には、英語・ローマ字で表記されているものも多く見受けられます。
 以前、街を歩きながら、こういった看板を“外国人の目”で見たらどう見えるだろうか、というのをちょっと想像しつつ眺めたことがあります。つまり、自分たちに理解できる文字や言語で名前が書かれ、しばしば親しみやインパクトを狙った図案化がされてはいても、そういった無数の名前のうちいったいどれくらいが実際に外国人にアピールするか、ということを想像するという遊びです。もちろん、私自身が“外国人”ではないので、あくまでも想像の中のお遊びにすぎないのですが。
 なんでこんなことをしていたかというと、だいぶ昔イタリアに旅行した時に、たくさん出ている広告看板のうちなんとなく身近なものに感じられたのはマクドナルドとガソリンスタンドのAgipくらいだったという思い出があったからです。
 その目線で看板を見ていくと、イラスト入りの「Cleaning」ロゴはたぶんまったく印象に残りません。「AOKI」や「マツモトキヨシ」や「ドンキホーテ」も同様でしょう。ご当地スーパーのロゴデザインがどんなに凝っていても、やはり一度で覚えるのは無理です。
 看板を身近に感じられるためには、名前やその意匠を事前にある程度見かけており、経験的に見慣れていることが、やはり必要ではないかと思います。マクドナルドやマイクロソフトの社名ロゴは、外国人でも見慣れている名前の筆頭でしょう。ガソリンスタンドでいえばShell(昭和シェル)やEsso、Mobilなどもそうです。最近はSAMSUNGもその一角に入っているのだそうです。
 そして日本企業の場合、SONYやPanasonicやTOYOTAあたりが代表選手となるでしょう。これらの看板やポスターが街角にあれば、どんな外国人が見てもそれが何のポスターであるかが一目でわかります。それがブランドネームの力です。一方で、JRやNHKやNTTなどの企業名・マークは、日本人なら見た瞬間に誰もがピンと来るでしょうが、(日本に来たばかりの)外国人にとってはたぶんそうではありません。
 逆を考えてみると、例えばシーメンスやテレフンケンはドイツでは誰もが知っているビッグネームですが、日本では(もちろん知っている人はよく知っていますが)いまいち知名度が低いのではないでしょうか。たぶん船井電機より知名度は下だと思います。ただしドイツの電機メーカーの中でも、ブラウンの「BRAUN」ロゴあたりは電気カミソリで日本でもよく知られているでしょう。
 既に商品パッケージや広告などを通じて見知っていることが、これらの企業名(とその図案)を見た時に、「あ、見たことある」と感じられるかどうかを決め、それが身近さや親しみの感情へとつながっていきます。こういった名前の知名度や身近さは、別にその名前を持つ企業や商品が“偉い”かどうかや“優れている”かどうかとは、基本的に何の関係もありません。見た者が経験的にその名前や意匠に馴染んでいるかどうかというだけのことです。
 だから、地元では遠くからでもちらりと見かけた瞬間に「あ、○○スーパーだ」とピンと識別できる看板が、外の人には何の会社の看板なのか見ただけではまったくわからないという事態も生じます。ずっと都会でのみ生活してきた人の中には、「Aコープ」のロゴなんて見たこともないから見かけても何の店なのかさっぱりわからないという方もおられるかもしれません。円谷プロがエイプリルフール恒例嘘サイト企画として今年行った「円谷ッター」だって、Twitterを見慣れている人ならサイトの一番上のタイトルロゴが「Twitter」のロゴを下敷きにしていたことが一目でわかりますが、Twitterを知らない(または見慣れていない)人はそもそもロゴに元ネタがあることにも気付かなかったでしょう。