自己立法

 ちょっと「あるある」と思ってしまった話。

「IFRSは経理部員にウケが悪く、監査人にはウケがいい」(2011/7/26)

 これ、「ルール」の捉え方によってかなり感覚が変わってくるんでしょうね。もっと正確には、「ルール」と自分の仕事の関係の考え方というか。
 現場経理や、管理部門でも実務的な経理実務を担っている人にとって、ルールと言うのはだいたい「所与のもの」という意識が強いんだろうと思うわけです。ルールとは「あれをしちゃいけない」「これをしちゃいけない」という外枠をきっちり決めたり、「こういう場合にはこうしなさい」というガイドラインを明示するものであって、裏を返せば、そのルールの内側においては基本的に各員の自由裁量が認められます。
 これは、日本の既存の会計基準IFRSとの違いを語る場合によく出てくる「規則主義」と「原則主義」の違いにも関連します。やるべきでないことは規則によって誰かがきっちり決めているのでそれを守らなきゃいけない、反対に規則で定められていないことは何をしても構わない、という考え方が、既存の会計基準の特徴とされる「規則主義」と呼ばれるものです。そのため現在の経理担当者は基本的に「べからず集」「べき集」としての規則を一つ一つ参照する必要がありますが、規則に無いことについては都度都度のアドホックな(原則を持たない機会主義的な)判断で構わないという発想になります。
 IFRSの「原則主義」はこれとは異なり、外から押しつけられる「べからず集」は最小限にとどめられていますが、だからといってアドホックな判断で何をしてもいいということではなく、むしろ自分自身に適用するための体系的な方針や原理原則を自分で作って自分で守っていかねばならなくなります。「ルールがないなら何をしても自由だろ」とばかりに体系的な原理原則を持たないアドホックな判断を行うことは、単なる無秩序として許容されなくなるわけです。
 リンク先にある「OJTでの会計の勉強が中心のため、ルールは知っていても会計理論には弱い傾向にあります」という話は、いかにして既存のルールをはみ出さないようにするかという発想からは、IFRSの原則主義のような「自己立法」の考え方はなかなか生まれにくいということなのでしょう。